美枝子ちゃんとステラマギカちゃん、ひとつになる。

なご蟹さんのこのお話の続きを書いてみました。
http://heltmagna.blogspot.jp/2017/09/blog-post_23.html

優二が美枝子に変身しないように言ってから10日。その後3日間はクラスで顔を合わせてもなんとなくふたりともぎこちなく言葉も交わさない2人だったが、4日目から今日まで美枝子は学校を休み続けている。前にダメージを受けて変身解除が不完全なまま止まったあのときも、4日間で身体ももとに戻り、心も癒やされたためブローチも復元され美枝子の身体の中に戻っていき、完全に元気が戻って学校に帰ってきたことを考えると、優二は不安でたまらなくなっていた。

そして、その日も不安と心配で授業にも身に入らない状態で家に帰り、着替えもせずやるせなくベッドに横になっていると、携帯に電話が入ってきた。美枝子ちゃんだ! 胸の動悸があがったまま電話に出る優二。

「大沢くん。話したいことがあるからあたしの家に来て。長くなるし、つらいことも話すけど、聞いてもらわないと始まらないから。お願い。」
「美枝子ちゃん? 大丈夫?」
「あたしは大丈夫。でも……」
「わかった。すぐ行くから!」
「あっ…… 大沢くん……」
気がつくと、優二は無意識に電話を切り、学校の制服のまま家を飛び出し美枝子の家まで早足で進んでいった。

「美枝子ちゃん!」
美枝子の家につくと、優二は呼び鈴も鳴らさず玄関に向かって叫んだ。
玄関を開けると迎え入れたのは彗子だった。
「大沢くん。落ち着きなさい。気持ちはわかるけどさあ。美枝子と大沢くんの絆は簡単には切れないことは私が保証するから。」
彗子の言葉を聞いて、心を落ち着かせて、美枝子の部屋に近づく。
「私はここで戻るから、二人で気が済むまでとことん話してきなさいよ。」
彗子の言葉に背中を押されるように美枝子の部屋のドアをノックする優二。
「美枝子ちゃん、今大丈夫?」
「大沢くん…… うん、いいよ。」
美枝子の部屋にはいるのには慣れているはずなのだが、なぜだか今までにない緊張感とともにドアを開ける優二。
そこにいたのは、その黒髪が膝上あたりまで伸びてパジャマ姿の、いつもとは明らかに違う美枝子の姿があった。
「大沢くん。実は、いろいろあって、一週間前から髪が伸びたままボブに戻らなくて…… みっともない姿でごめんなさい。」
黒髪ロングの美枝子という、中途半端な変身が解除できないまま定着している姿に、今の美枝子の不安定な状態を見て取った優二は、どう言葉をかけていいかわからなくなっていた。

しばらくの気まずい沈黙のあと、優二が重い口を開いた。
「美枝子ちゃん。話ってなんだい?」
「…………実は、ステラマギカっていう存在は、何百年も転生していろんな時代に現れてるの。そして今は、私の身体に宿ってるの。つまり、私の心と魂は生まれつきステラマギカだったってことなの。」
覚悟はしていなかったと言えば嘘になるが、やはり美枝子の口からその事実を語られると慄然とする他ない。
「そして、ママが大沢くんに言ってたとおり、私たちの家系は異世界人の血が入っていて、数世代に一人変身できる体質の女性が生まれるみたいで。そしたら、うちはなぜか二世代連続で変身できる魔法少女体質が現れて、そこに私がステラマギカの魂が宿してしまって、自分が大きな存在なのだと考えたら、とても気が重くなっちゃって、やる気がストップしちゃった。」
「それで、10日前、私がなにかおかしいことになった時あったでしょ。ステラマギカの記憶が私に流れ込んだ時、あのときのこともわかったの。今度は星城美枝子として大沢くんに訊くけど、私とステラマギカと、どっちが好きなの? 美枝子としての私を好きで、守りたいと思うのなら、このままじゃ大沢くんの身の危険を守りきれなくなる。それが怖いの。ステラマギカが好きでやってるって言うなら、その覚悟を引き受けたと考えるからかまわないけど。」
「えっ? 美枝子ちゃん、それって……」
あのときには美枝子ではない何かを感じたが、今日同じ質問をしてきた彼女には、その時の何かと美枝子自身の両方の思いが見て取れた。
優二はその事実に一瞬たじろいだが、このことでひとつの答えにたどりついた。そして、勇気を出して声に出す。
「美枝子ちゃん。君がステラマギカちゃんだとわかった時は、魔法少女と、変身ヒロインとお近づきになれるっていう邪な気持ちがあったってことは否定しないよ。でも美枝子ちゃんが、ステラマギカちゃんが、ひたむきにみんなの悩みや苦しみに向き合ってるのを見てるうちに、僕も、その力になりたいと思ったし、幸い僕にもステラマギカちゃんほどじゃないけど力を持ってたから、その力を貸して君を助けることも出来たし、ステラマギカちゃんのその技さばき、問題が解決したときの美枝子ちゃんの柔らかい笑顔、すべてが好きになっちゃったんだ。ステラマギカちゃんが美枝子ちゃんの一部とか美枝子ちゃんがステラマギカちゃんの一部とかそんなことじゃないんだよ。美枝子ちゃんでもなくステラマギカちゃんでもなく『君』が好きなんだよ! これからも力になりたいし、守れるなら僕も君を守りたい! これが答えだよ。」
思いを抑えられなくなった優二は、その思いをためらわず美枝子の唇に向け、口づけをした。

突然のことに美枝子は目を見開く。その刹那、彼女の胸から今までにないほどのまばゆい光が溢れ出し、ブローチが現れた。ブローチは美枝子の意思などお構いなしにリボンを放ち、口づけを交わす二人をまるごと包んで、そのリボンは優二の身体をすり抜け美枝子の着ていたパジャマを溶かし、その体にステラマギカのドレスをまとわせ始める。見開いたままの美枝子の瞳は静かにブラウンから翠に変色し、黒髪も毛根から金色に染まっていく。変身により、髪が膝上から腰のあたりへと視覚上で変わっていくほど身長が伸びていき、どこからか現れた髪留めがツインテールを形成させる。
優二は、ブラウンから翠に変わっていく美枝子の瞳を見つめながら、その唇から漏れ出すステラマギカの記憶と美枝子の思いを受け止めていた。
「美枝子ちゃん。ステラマギカちゃん。こんな…… でも、僕は負けない。諦めない。」
そう優二は思いを新たにして、ステラマギカに完全に変身した彼女の唇から離れた。
「大沢くん、強いんだね。これで、私は仲間として、恋人として、大沢くん、いや、優二くんとずっとやっていける気がする。これから私は、ステラマギカでもあり、星城美枝子でもある『私』として生きていくことに迷いも曇りもなくなったよ。」
その言葉に、変身した彼女の佇まいに、「ステラマギカ」と「星城美枝子」は完全に一つになったのを、優二は強く感じ取った。

「それじゃ、いつもの美枝子に戻ってみるね。Stella blooming!」
いつものようなつぶやきではなく、力強い叫びとともに変身解除を念じた。
ステラマギカの変身結界を透視できる優二にはわからないが、結界を形成する光も今までにない眩しさなのであった。
変身結界の中で、ステラマギカは星城美枝子へと戻っていく。魔法少女のドレスはあどけない少女のパジャマに戻り、一週間もの間もとに戻らなかった髪もボブカットの黒髪へと戻りながら。
ふうっ、と吐息を漏らした美枝子はすぐにうなじに手を伸ばした。
「あっ、よかった! 優二くん! 髪が! 髪がもとに戻ったよ!」
一週間の苦悶から開放されて喜ぶ美枝子の姿は10日以上前のあの幼さの残る美枝子そのものだ。でも、ステラマギカとの意識の統合で、ちょっとだけ心が成長してることを優二は感じ取っていた。
「優二くん、本当に、いいの? そのおかげで私ももとに戻ることが出来たから、虫の良い話だけど。」
「きっとなんとかなるさ。美枝子ちゃん。」
しばらくぶりの二人の心からの笑顔だった。

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